多くの班が通り過ぎ、残るは1つの班。姿は見えたのですが、途中で止まって何かしているようでした。ようやく横断歩道までやってきて、一言。
「校長先生、傘が壊れた。」
またかと思いました。今度は、先端部分の石突きがなくなり、中棒(シャフト)が外れ、傘を差したときに前方へ移動する下ろくろと呼ばれる部分を止める役割の止め鋲(ストッパー)の筒がなく、力を入れていないと傘が開いていない状態、つまり傘として機能しない状態でした。
ふと、先ほど壊れた傘を見て後悔していたので、また壊れた傘に出会ったのかなと思いました。そして、
結構重傷だけど、これも何かの縁だからひとまずこの傘を差して家に帰れるように直してみよう
と思いました。そこで、「頑張って直してみるね」と傘を預かりました。
とは言ってはみたものの、直す自信はあまりなく、修繕作業に取りかかりました。まずは、ジャンプ傘の仕組みを理解しないと直すことができないので、学校の倉庫に行き、過去に忘れられて持ち主がいない傘たちを差してみて同じ仕組みのものを探しました。30分ほど探しましたが、似たようなものはあるのですが全く同じ仕組みのものが見当たらず困ってしまいました。ひとまず、傘の中棒(シャフト)が外れないようにしようと作業の方向転換をして、中棒の穴と同じ大きさのねじを探して差し込んで固定しようとあれこれ傘を触って考えていました。
ふとしたときに、1つ発見しました。傘を差したときに前方へ移動する下ろくろと呼ばれる部分を止める役割の止め鋲(ストッパー)の筒がないことに気付きました。同じ仕組みの傘を探していたとき、似たような傘はすべてストッパーとなる筒があるのにこれはない、どうやって下ろくろを止めるのか。ずっと悩んでいたのですが、下ろくろを前後に動かしていて、
ひょっとして中棒が抜けてしまったときに、筒が取れてなくなってしまったのではないか
とひらめきました。これで、直すポイントが明確になりました。
① 中棒(シャフト)が抜けないように固定すること
→ 石突きの方からねじを上ろくろに貫通させ、突き出た部分に中棒を差し込んで抜けないようにペンチでかんで中棒をつぶしてずれないようにした。
② ろくろが行き過ぎないようにストッパーを取り付けること
→ 中棒のストッパーがあったと思われるあたりに穴を開けて小さな釘を打ち込んで下ろくろが止まるようにした。
あれこれ悩みながら2時間かけてようやく、傘が何とか使えるようになりました。使うときの簡単な注意を伝えて、本人に返しました。
壊れたら古くなったら捨てて、新しいものを購入すれば良い。
機能性や効率化を図れば確かにそうかもしれません。今の世の中は、昔とは違うんだと言われればそうなのかもしれません。
しかし、一方ではSDGs(持続可能な開発目標)という考え方が広まっています。世界中の様々な国で環境問題(気候変動)・貧困・紛争・人権問題・新型コロナ等の感染症、多くの課題に直面し、このままでは安定してこの世界で暮らし続けることが困難になっていくのではないかと心配される状況になってきました。限られた自然、資源、エネルギーなど大切にし、貧困や差別がなく、人間が心豊かに過ごしていける社会を目指して、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げられていると思います。
身近なところで、子どもたちには、お家の人がお金を出して買ってくれた物を、もっと大事に扱い、長く使うこと、つまり物を大切にする心を育んでほしいと思っています。
どうして壊れてしまったのでしょうか?
きっと傘本来とは違う使い方をしていたのでしょうね。そのことに気付いて思い直してくれればと思います。
この傘の命を少しだけ延ばすお手伝いをさせていただきました。
受け取ったときの
「直してくれて、ありがとうございました。」
この言葉を聞いて、傘は喜んでくれたと思います。