教頭の黒木です。
わたしの小学校時代の同級生、小玉宏くんのお話です。
もともと宮崎県の中学校の理科の先生で、宮崎県教育委員会の指導主事も務めていました。ところが10年前、突然退職し、現在は、大分県で農業に従事するかたわら、ユーチューバー活動をしたり、全国各地で公演活動をしたりしています。
彼が、2012年にfacebookにアップした【いのちをいただく】を紹介します。この文章は、各地で反響を呼び、今現在、6万3千をこえる「いいね」がついています。わたし自身、道徳の授業や授業参観などでこれを参考にした授業をしたことがあります。かなりの長文ではありますが、ご一読いただけたら幸いです。
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【いのちをいただく】
「いただきます」って、
日本ならではの言葉なんだそうです。
だから、この言葉を知らない外国の人は、
「いただきますって、何ですか?」「それは、神に対する祈りですか?」
と聞いてきます。
もしもですよ、みなさんが子どもたちに、
「なんで食べる前に『いただきます』って言わなきゃいけないの?」
って聞かれたとしたら、どう答えますか?
たぶんですね、みなさんは、
「それはね、命をいただく動植物、食料を生産してくれた人、そして調理してくれた人に感謝するためなんだよ」
って答えるんじゃないかな、と思うんですけど、子どもたちにその話をして、
はたしてどれくらいの子どもたちが心から納得するでしょうか?
よく考えてみるとですよ、子どもたちはおそらく、似たようなことを何回も聞いているはずなんです。
でも、残念ながら、それが多くの子どもたちの心に響いていないのが現状ではないでしょうか?
それどころか、給食指導の時間にですよ、
「ちゃんといただきますを言わんね!」
「ごちそうさまは?」
「はい、合掌していない人がいるからやり直し!」
なんて、つい言ってしまうことって、ありますよね?
中学2年生の理科で、「動物の生活と種類」という単元がありまして、
その中で動物と植物の違いについて学習します。
動物と植物の一番の違いは何か?
それはですね、
「動物は、食べるために動かなければならない。
植物は、食べる必要がないので動かなくていい」
です。
植物は動けない、じゃないんです。
動かなくていいんです。
なぜか?
生きていくための栄養を、自分の力で作り出すことができるからです。
私たち動物にはそれができません。
だから、どうしても他の生き物を「食べる」必要がある。
動物だろうが植物だろうが、どんな生き物であっても、
自分の命の限り精いっぱい生き続けたい、そう願って生きているんだと
私は思います。
私たち動物は、そんな他の生き物の「いのち」を奪わなければ、
一時も生きていくことができない、悲しい宿命を背負った生き物なんです。
食を考えることは、命について考えることです。
このことを、どうやって子どもの心に響かせるのか、
そして、どうやって子どもの心に火を灯していくのか、
それが、きっとプロとしての教師の仕事なんだろうと思うんです。
私の心に深く残っているお話が二つありますので、ここでご紹介します。
一つは、九州大学大学院助教授の佐藤剛史先生が書いた、
「自炊男子~ 『人生で大切なこと』が見つかる物語」の中に出てくるお話です。
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「いただきます」「ごちそうさま」をなぜ言わなければならないか分かりますか?
「いただきます」の意味の一つは、「作ってくれた人の命をいただく」ということです。
命とは時間です。
ある人が80歳で亡くなったとしましょう。
ということは、80年間という時間が、その人の命だということです。
今朝、みなさんのお母さんは、30分かけて朝ご飯を作りました。
今日の夕食、お母さんは、1時間かけて夕ご飯を作ります。
その朝ご飯にはお母さんの30分ぶんの命、
夕ご飯には1時間分の命が込められているのです。
みなさんが生まれてから今日までの間、お母さん、お父さんは、
自分の命の時間を使って、みなさんを食べさせてきたのです。
そして、これから親元を離れるまで、ずっと、みなさんは、
お母さん、お父さんの命の時間を食べていくわけです。
「いただきます」の意味の一つは、「作ってくれた人の命をいただく」ということです。
食べ物を粗末にすることは、作ってくれた人の命を粗末にすることです。
心を込めて、「いただきます」「ごちそうさま」を言いましょう。
食べ物を作ってくれた人に感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。
出典:「自炊男子~『人生で大切なこと』が見つかる物語」
佐藤剛史 著 / 現代書林
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そしてもう一つは、内田産婦人科医院の内田美智子先生が書いた、
「いのちをいただく」
という絵本のもとになったお話です。
この絵本、ぜひともご購入いただいてクラスの子どもたちやご自分のお子さんに
読み聞かせてあげてほしい、そんな願いを込めてご紹介しますね。
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坂本さんは、食肉加工センターに勤めています。
(中略)
ある日、一日の仕事を終えた坂本さんが事務所で休んでいると、
一台のトラックが食肉加工センターの門をくぐってきました。
荷台には、明日、殺される予定の牛が積まれていました。
坂本さんが
「明日の牛ばいねぇ…」
と思って見ていると、助手席から十歳くらいの女の子が飛び降りてきました。
そして、そのままトラックの荷台に上がっていきました。
坂本さんは
「危なかねぇ…」
と思って見ていましたが、しばらくたっても降りてこないので、
心配になってトラックに近づいてみました。
すると、女の子が牛に話しかけている声が聞こえてきました。
「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ…」
「みいちゃんが肉にならんとお正月が来んて、じいちゃんの言わすけん、
みいちゃんば売らんとみんなが暮らせんけん。
ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ…」
そう言いながら、一生懸命に牛のお腹をさすっていました。
坂本さんは
「見なきゃよかった」
と思いました。
トラックの運転席から女の子のおじいちゃんが降りてきて、坂本さんに頭を下げました。
「坂本さん、みいちゃんは、この子と一緒に育ちました。
だけん、ずっとうちに置いとくつもりでした。
ばってん、みいちゃんば売らんと、この子にお年玉も、
クリスマスプレゼントも買ってやれんとです。
明日は、どうぞ、よろしくお願いします」
坂本さんは、
「この仕事はやめよう。もうできん」
と思いました。
(中略)
牛舎に入ると、みいちゃんは、他の牛がするように角を下げて、
坂本さんを威嚇するようなポーズをとりました。
坂本さんは迷いましたが、そっと手を出すと、
最初は威嚇していたみいちゃんも、しだいに坂本さんの手を
くんくんと嗅ぐようになりました。
坂本さんが、
「みいちゃん、ごめんよう。みいちゃんが肉にならんと、
みんなが困るけん。ごめんよう…」
と言うと、みいちゃんは、坂本さんに首をこすり付けてきました。
(中略)
牛を殺し解体する、その時が来ました。
坂本さんが、
「じっとしとけよ、みいちゃんじっとしとけよ」
と言うと、
みいちゃんは、ちょっとも動きませんでした。
その時、みいちゃんの大きな目から涙がこぼれ落ちてきました。
坂本さんは、牛が泣くのを初めて見ました。
(後略)
出典:「いのちをいただく」
内田美智子・諸江和美 著
西日本新聞社
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ある学校で、保護者の一人から、
「給食費を払っているのに、『いただきます』と子どもに言わせるのはおかしい」
というクレームがあった、との話を聞いたことがあります。
「なんという常識のない保護者なんだ!」
と片付けるのは簡単です。
でも、もしもこの保護者が、この話を知っていたとしたら、どうだったでしょう?
現在の食生活は、「命をいただく」というイメージからずいぶん遠くなってきています。
そしてその結果、食べ物が粗末に扱われて、日本での一年間の食べ残し食品は、
発展途上国での、何と3300万人分の年間食料に相当するといいます。
私たちは奪われた命の意味も深く考えることなく、毎日の食事と向き合っています。
動物は、みんな自分の食べ物を自分で獲って生きているのに、
人間だけが、自分で直接手を汚すこともなく、坂本さんのような方々の
思いも知らないまま、毎日の食事を食べています。
動物だろうが植物だろうが、どんな生き物であっても、
自分の命の限り精いっぱい生き続けたい、
そう願って生きているんだと私は思います。
命をいただくことに対しての「思い」。
お肉を食べて
「あ~、美味しい。ありがとう」
お野菜を食べて
「あ~、美味しい。ありがとう」
そこに生まれる思いはどんな思いでしょう?
お肉を食べて
「うぇ~、マズッ!」
お野菜を食べて
「うぇ~、マズッ!」
そこに生まれる思いはどんな思いでしょう?
食べ物をいただくとき、そこに尊い命があったことを忘れずに、その命を敬い、
感謝の言葉をかけてあげられる人に育ちましょう。
今日もまた、食べられることへの感謝の言葉、
「ありがとうございます。感謝します。いただきます」
食べているときの「美味しい!」という言葉。
そして食べ終わった後の、「あ~、美味しかった。ありがとうございます。ご馳走さまでした」
という「食べられたこと」への感謝の言葉をかけてあげましょう。
もちろん、食べ残しをせずに。
食べ物が、あなたの体を作ります。
あなたの体に姿を変えて、あなたの中で生き続けます。
そして、体の中からあなたを精いっぱい応援してくれています。
あなたができる最高の恩返しは、たくさんの生き物たちから
命のバトンを託されたあなたの命を、いっぱいに輝かせること。
喜びに満ちた人生を過ごすこと。
それが、あなたと共に生きているたくさんの命たちが、いちばん喜ぶことなんです。
みんなの分まで、命いっぱいに輝きましょう。
…これが、私が教師として、プロとして、目の前にいる子どもたちやその保護者に
伝え続けていきたいメッセージです。